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私にしか作れないものを探して──革花への情熱が芽生えた日

※この記事は「革花作家|販売と心の記録」シリーズの第8話です。

▼ 第7話はこちら:
兄が教えてくれた「相手を思って作ること」の深さ。そして、革花への入り口へ。

兄とともに歩んだレザークラフトの日々

レザークラフトを始めて1年7か月。
小物からショルダーバッグ、トートバッグまで作れるようになった頃だった。

時間さえあれば、革を縫っていた。自分でも、少しずつ上達を感じられるようになっていた。
ヌメ革だけでなく、シボのある革、オイルレザーなど、直に触れて学ぶうちに、革の奥深さにも気づき始めていた。

サイズや用途に合わせて革の厚みを変える感覚も、自然と身についていった。
A級・B級という革のランク、原価や仕入れの話…それまで知らなかったことを、兄がひとつひとつ教えてくれた。

 

 

この頃には、月2回ほどのイベント出展が定着してきた。
テレビ局の取材を受けるような大きなイベントにも出るようになり、少しずつ名前が知られるようになっていった。

けれど、取材されるのはいつも兄の作品だけだった。
私の作ったアクセサリーは、まるで見えていないかのようにスルーされるのが常だった。

兄の作品は、カラフルでやさしい雰囲気が魅力で、性別を問わず多くの人に人気があった。「インスタを見てきました」と言って、兄の作品を目指してくるお客さまも増えていた。

私はというと、兄から頼まれた小物を作りながら、広報全般も担っていた。
送られてきた画像に文章を添えてインスタに投稿したり、イベントの準備をしたり。空いた時間を使って、できることを黙々とこなしていた。

報われない努力と、胸に芽生えた違和感

けれど、どんなに丁寧に作っても、どんなに時間をかけて宣伝しても、探されるのはいつも兄の作品だった。

私の作品が売れることもあったけれど、販売価格が安く、原価を差し引くと雀の涙ほどしか残らなかった。その現実が、悔しくて、苦しくて、どこにもぶつけられない思いが心の中に積もっていった。

兄の作品と並べてみたとき、以前ほどの完成度の差はないように思えた。
でも、何かが違う。だから選ばれない。そう感じていた。

──このまま、兄に言われたものを作るだけの毎日に、私は満足できるだろうか?

自分自身に問いかけたとき、「そんなのいやだ。面白くもなんともない!」という感情がふっと浮かんだ。
それは、自分の中で眠っていた「何かを生み出したい」という想いだったのかもしれない。

でも、兄より上手に作れる自信はない。
それでも、私は、このままの状況に、どうしても納得できなかった。

私にしかできないことを探して

このままじゃだめだ。
兄と同じことをやっていても、いつまでたっても敵わない。
私にしか作れないものを見つけないと、状況は変わらない──!

そう思ったとき、ふと“革絞り”という技法のことを思い出した。
以前それを見たとき、革が形を変えることに、強く惹かれた記憶があった。

抜型を使って濡らした革を成形してみたけれど、それは誰でもできること。すぐに真似されてしまう。
どうすれば、自分だけのものが作れるのか──そんな問いを抱えながら、私は試行錯誤を始めた。

手元にあった1mmの革を濡らして、引っ張ったり、伸ばしたり、ひねったり…
そのなかで、不意に心に浮かんだ。

──「革で花を作ってみたい!」

あの、武骨な革小物とは真逆の、繊細でやわらかく、ひらひらと舞うような革の花。

染色にも興味があった。革をひとつひとつ染められたら…!
その時点で、私はもうワクワクが止まらなかった。

これは、きっと私にしか作れない。
どこかで、そう確信していた。

点と点が一気につながって、勢いよく心が動き出した。

革の花との出会い

私はネットで検索し始めた。
革の花でも、ブローチでも、何でもいい。とにかく情報が欲しかった。

けれど、見つかるのは販売されている革の花ばかりで、作り方はどこにもなかった。
その花たちは、大きくて、エレガントすぎて──私が作りたいものとは違っていた。

もっと色が美しくて、花びらが柔らかそうで、「可愛い」と「エレガント」の間を漂うような、そんな革の花が作りたかった。

──ないなら、作ればいいじゃん。

その想いを胸に、私は兄に言われた小物を作りながら、ひとり密かに、革の花を作り始めた。

最初はどう作ればいいのかもわからず、つまみ細工、樹脂の花、組紐など、ヒントになりそうなものはすべて試してみた。

試作を重ね、ようやく完成した花が「桜」だった。

 

 

兄にはまだ黙っていた。
完成していないものを見せて、否定されるのが怖かったから。

でも、どこかで思っていた。

──兄には絶対作れない“革の花”を、私は必ず完成させてみせる。

それが、私の中に芽生えた「革花への情熱」のはじまりだった。


絶望、悔しさ、葛藤。
比べられる日々。自分の存在意義や、人としての価値まで、何度も問い続けてきた。

それでも私は、笑顔の裏で、ひとり──
大きな一歩を踏み出そうとしていた。


▶第9話

関連作品:

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この記事は、「革花作家|販売と心の記録」というカテゴリの中の一編です。
2017年に革花を始めた当初からの、販売の葛藤や気づき、そして自分自身と向き合ってきた過程を時系列で記録しています。
革花作家|販売と心の記録

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