レザークラフトを始めて、1年半。
兄と一緒に革小物を作りながら、本当にたくさんのことを学んだ。
型紙がほんの少しズレただけで、完成したときには形がゆがんでしまうこと。
曲線を美しく切ることの難しさ。
縫い穴がほんのわずかにズレただけで、全体の美しさが損なわれてしまうこと。
接着がうまくいかないと、どんなに丁寧にコバを磨いても割れてしまうこと。
一見、簡単そうに見える工程の中に、実はたくさんの工夫と技術が詰まっている。
そのことを、ひとつひとつの作業を通して、少しずつ体で覚えていった。
当時は、兄が型紙を作り、私が革に写して切るところから、完成までを担当していた。
新しいものを作ろうとすると、ひとりでは形にできないことばかりだったのに、なぜか私は「ほとんどのことができる!」と思い込んでいた。
作るのが楽しかったし、少しずつ上達しているのも感じられていたから、やりがいがあり、夢中だった。
でも今思えば──考え方が、ずいぶん甘かったなと思う。
「革小物で一番大事なのは、型紙だよ」
兄はいつもそう言っていた。
「少しのズレが、完成に大きく響く」とも。

あるとき、サングラス用の眼鏡ケースのオーダーをいただいた。
これまでに作ったことのないサイズだった。
兄が床革で何度も試作を繰り返していたのを、私はそばで見ているだけだった。
マチを広くする──その一言で済むほど、簡単なことじゃなかった。
ひとつ工夫すれば、また別の箇所にゆがみが出て、作り直し。
直したら直したで、また別の場所がうまくいかず……
気が遠くなるほどの試行錯誤だった。
小さなことにも一切手を抜かず、納得いくまで試作を繰り返す兄の姿を見て、「相手を思って作るって、こういうことなんだ」と、心から感じた。
この経験は、のちに私が革花を作るうえで、何より大きなヒントになった。
型紙の作り方、革の切り方、組み立て、そして仕上げ。
兄のそばで学んだすべてが、今の私の“土台”になっている。

そしてもうひとつ、この頃の私に起きた変化がある。
革小物と並行して、アクセサリーづくりをしていた私は、いつのまにか「染色」に強く惹かれるようになっていた。
兄が試しに買っていた染色のお試しセット──
三原色と黒・茶、それに仕上げ剤が入った、あのセット。
色を眺めるだけでワクワクして、今でもその瞬間を覚えている。
兄からは「グラデーション染め」の方法も教わっていたけれど、当時の私は、ただただ「革を染めてみたい!」という気持ちでいっぱいだった。
毎日、革小物を作り続ける日々のなかで、“色”に触れることが、なによりの癒しだったのかもしれない。

あるとき、抜型でしずく型に抜いた革を濡らしてつまんでみたら──
平らだった革が、ふわりと立体的になった。
その瞬間が嬉しくて、夢中でいろんな型を試した。
つまんでみたり、道具で形を変えてみたり。
平らな革が、ぐっと立体になっていくのが面白くて、気がつけば時間を忘れて没頭していた。
もちろんこの頃の私は、「どんな形を作りたいのか」なんて完成形を持っていたわけではなかった。
ただ、立体にしたかった。
ただ、楽しくて、やってみたかった。
それだけだった。
でも、今になって思う。
この頃から、すでに私の中の「革花作り」は、
静かに──でも確かに、始まっていたのかもしれない。
次回予告|第8話
この記事は、「革花作家|販売と心の記録」というカテゴリの中の一編です。
2017年に革花を始めた当初からの、販売の葛藤や気づき、そして自分自身と向き合ってきた過程を時系列で記録しています。
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