
昔の私は、ただ作品を作ればいいと思っていた。
いくつも作っていたら、きっと、偶然出会った誰かが見つけてくれて、買ってくれるだろうと思っていた。
でも、現実はそんなに甘くない。思うように売れず、在庫はどんどんたまる一方で、どうして私の作品は売れないんだろうと、そればかりを考えていた。
あるとき、お客さまと一緒に作品を選んでいく中で、「選ばれる理由」がただの偶然じゃないと気づいた。
今思えば、それが“ペルソナ”という考え方につながっていたのだと思う。
売れない理由を探して悩んでいた頃
ハンドメイドを始めて、イベントに毎月出展するようになり、【物を売る】ということに対して抵抗がなくなった私。
けれど、イベントが終わると、毎回のように「今回も売れなかった。」「選ばれなかった。」と落胆してばかりだった。
兄から言われたものを作っても、なぜか売れない。あんなに丁寧に時間をかけたのに、どうして?と涙をこらえることも少なくなかった。
私が作っているものは、そんなに魅力がないのかな?見た目が可愛くないから駄目なのかな?そればかりが頭の中をぐるぐる回っていた。でも、考えても答えは出なかった。
当時の私は、とにかく数をたくさん作れば、その中のどれかは選ばれるだろうからと「数打ちゃ当たる」くらいに思いながら、ものづくりをしていたのだった。
“誰かに選ばれる”経験が、ものづくりの視点を変えた日
百貨店でイベントに出展したときのこと。
やたらと私たちのブースを何度も見に来てくれるお客さまがいた。何かを探しているのだろうけれど、こちらに声をかけることもなく、他の出展者さんのところへ行ったり戻ってきたりしていた。
私は、なんとなく、探し物をしているのでは?と思い、お客さまに声をかけてみた。
「プレゼントを探しているんだけど、素敵なものがたくさんあるから迷ってしまって…」
詳しく話を聞くと、ご主人への誕生日プレゼントを探しているとのこと。しかも、還暦のお祝いだから、奮発してでも喜んでくれるものを購入したいと言っていた。
その時点で、私の頭の中には【赤】という色が浮かんでいたのだが、それは言わずに、詳しく、どんなものを探しているのか聞いていくことにした。
・お誕生日プレゼント&還暦祝い
・ご主人は、緑色が好き
・革小物が好き
革小物を見ながら、細かく聞いていくと、いろいろなお話を聞くことができた。
・おしゃれが好き
・優しくて、ほんわかした雰囲気
この話を聞いていくと、どんどん私の中でも、ご主人がどんな人なのかイメージがついてきた。優しい雰囲気で、おしゃれが好き…きっと私たちの革小物に満足してもらえるのではと思った。
私たちが作っていた革小物は、ユニセックスデザインで、どんな方にも使えるようなかっこよくも可愛らしさのあるものが中心だった。
その中から、緑色の薄型のコンパクトな財布を勧めてみた。ご主人が好きな【緑色】のものを。
最初は、スマホケースにしようか、小銭入れにしようかとかなり悩んでいたものの、機能面やサイズ感、色など、ご主人が好きなものにピタッとはまるものだったようで、「これはいかがですか?」と見せた途端、満面の笑みで「これで!!」と、即決だった。
でもこのとき私は、ひとつ大きなことに気がついた。
自分が「きっとこうだろう」と想像していたものと、相手が本当に求めているものは、必ずしも同じじゃないということ。
還暦だから赤、と決めつけていたら、このご主人の“好き”にはたどりつけなかった。
きちんと耳を傾けて、その人のことを知ろうとしたからこそ、本当に選んでもらえるものを提案できたのだと思う。
この出来事は、ものづくりに向き合う私の意識を、大きく変えるきっかけになった。
当時はまだ、販売ということが何なのか、よく分かっていなかった私。
けれど、インターネット販売を始めるようになってからも、私はこの出来事を、何度も思い出していた。
“ペルソナ”はマーケティングじゃなく、視点の持ち方だった
私は、インターネット販売では、革花アクセサリーだけを販売することを決めていた。
そこで、百貨店での出来事をもとに、イベントに来られた方の中から、自分用に購入された方や、プレゼント用に選んでくださった方のことを思い出しながら、作ることにした。
・色白で、ワンピースがとてもよく似合っている人
・私より一回りくらい若い人だったな
・おしゃれが好きなのだろう、小物にもこだわりが見えていた
・普段、会社では制服を着ているから、休日は思い切りおしゃれを楽しみたい
…そんなことを言っていたのを思い出しながら、この人にぜひおすすめしたい!と言えるアクセサリーはどんなものかな…とイメージしながら、一緒に選ぶつもりでデザインしていくと、不思議とその人に重なるようなデザイン、色選びにつながった。
たくさん作っていた頃にはなかった、“誰かを思ってつくる”という視点が、いつの間にか私の中に芽生えていたのだと思う。
完成した革花アクセサリーは、まさに、その人に着けてほしい作品にできた。
そうして、私が「こんな人に着けてほしい」というイメージで作っていった作品は、どんどん“私だけの世界観”として現れ始め、バラバラなイメージだった過去の作品は、生まれ変わり始めた。
「この作品は、kaoさんの作品だよね!」と言われるようになったのは、この気づきからだった。
「誰かを思って作る」ことが、あなただけの作品の軸になっていく
ものづくりを始めたばかりの頃は、特に自分だけの視点で、作りたいものを作ってしまう。もちろん、最初はそれでいい。どんなものが作れるかを知るための指標になるから。
けれど、それが「商品」として販売をするとなった場合は、やはり視点を少し変えてみる必要がある。
どんな人に使ってほしいのか。どういうときに使ってほしいのか。それを着けたとき、どんな気持ちになってほしいのか。
最初の頃、私はそれを言われても全くピンと来なかった。単にものづくりが楽しいというステージにいたからだ。
その頃は、「誰かのために」、というより、「作りたいから何でも作っていいよね」という考えが強かったから、作っているもののイメージはバラバラで、何が作りたいのかと聞かれても答えられないほどだった。
でも、お客さまの立場に立って、よく考えてほしい。
たとえば──
外観が自分好みのお店に入ったとして、たくさん並ぶ商品を順に見ていったとき。ふわふわした可愛らしいイメージのものばかりが並んでいる店内を、テンション高めに見ていたとして。
もっと他にも自分好みのものがあるかもしれない!と、ワクワクが最高潮のとき。
その隣に、まったくイメージの真逆な、無骨でゴツゴツしたものが並んでいたら──
一気にワクワクがしぼんでしまうのではないだろうか。
お客さまは、きっと、ふわふわで可愛らしいその雰囲気が大好きで、もっと見てみたい!もっと大好きなイメージのものが見つかるかもしれない!と期待していたはずだ。
これは、たとえ話だったけれど、実際のものづくりでは、たびたびこういうことが起きる。私自身もそうだったから。
ものづくりは、最初の入り口は、「やってみたい」「楽しい!」という思いから始まるけれど、お金をいただく“商品”を作るときには、「誰のために作るのか」という視点が一番大切なのだ。
相手がどんな人かをイメージするからこそ、作品にまとまりが出てきて、やがてあなたにしか作れない世界観が作り出される。
一番大切なのは、「誰のために作るのか」という視点と、どうしたらその人に喜んでもらえるかという「プレゼントを作るような気持ち」。
それが、あなたのものづくりの軸となることは、間違いない。
きっとその先に、あなたにしか作れない作品が待っているはずだから。
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選ばれる理由に気づいた日。百貨店での初出展で見えた“リアルなペルソナ像”
この記事は、「ものづくりで生きるということ」というカテゴリの中の一編です。
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