※この記事は「革花作家|販売と心の記録」シリーズの第4話です。
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“ガラクタ”と呼ばれても──悔しさが教えてくれた、作ることへの向き合い方
「自分にしかできないものづくり」を求めて動き出した日々
前回のイベントで感じた悔しさをきっかけに、私は「自分にしかできないものづくり」を意識し始めた。
何を作りたいのかも、どんなふうに表現したいのかも、まだよく分からなかったけれど、とにかくヒントになりそうなことは、手あたり次第に試していた。
「人と似たものではなく、自分の感覚を形にしたい」という気持ちだけが、次第に強くなっていった。
レザーバーニングとの出会いと、革の染色に芽生えた興味

この頃、「レザーバーニング」という技法に出会った。
焼きゴテで革を焦がしながら、模様や絵を描いていくというもので、もともと絵を描くのが好きだった私は、すぐに興味を持ち、挑戦してみることにした。
兄が持っていた刻印の中にあったネイティブアメリカンの模様──そのひとつひとつに意味があることを知り、しばらく夢中になってアクセサリーに取り入れていた。
しばらくは、ただ模様を描くだけで満足していたのだけれど、次第に物足りなさを感じ始め、当時興味を持っていたマンダラやボタニカルアートの要素を加えていくようになった。自由に、思いつくままに描いていたこの時期。作品には、まだ明確な方向性はなかったけれど、何かが少しずつ動き始めていた。

その頃から私は、革の染色にも興味を持ち始めていた。
最初は単色で染めたり、いくつかの色を重ねてみたり。色を扱うことがただ楽しくて、夢中になっていた。そうしていくうちに、自分の中にあった「色が好き」という気持ちが、抑えきれないほどあふれてきた。
それまでは、「革=かっこいい」という固定観念がどこかにあった。
でも、だんだんと“色鮮やかさ”や“花モチーフ”に惹かれるようになっていた。
同時に、兄がデザインした革小物を一緒に作ることにも取り組んでいた。小さなキーカバーや、手縫いのカードケース。兄と始めたレザークラフトは、少しずつ、私の中で違うかたちに変わり始めていた。
楽しく作ることが大事?──言葉に救われ、前へ進んだ理由
前回のイベントが終わったあと、しばらくは落ち込んでいたけれど、「やるしかない」と自分に言い聞かせて、なんとか前に進もうとしていた。
あのイベントのとき、長く活動している作家さんがこう言ってくれた。
「ハンドメイドって、すぐに売れるようにはならないけど、長く続けたいなら“楽しむ”ことが一番よ。
楽しんで作った作品は、お客さんにも伝わるのよ。」
その言葉に、私は少し救われたような気がした。
「楽しい」が伝染するのなら、私も楽しんで作ってみよう、と。そう思えたからこそ、新しいことに挑戦するのが、少しだけ楽しみになった。
それまでは「兄の手伝いをする」立場だったけれど、自分ができることを探し始めると、意外とできることはあるんだと気づいた。
それが、当時の私の原動力になっていた。
ワークショップ出展で感じた悔しさと、兄との距離感
イベントから2か月ほどたった頃、「ワークショップに出てみないか」と声をかけていただき、出展が決まった。
「誰でも楽しめる、簡単な革小物を」と、兄と一緒に試作を重ねた。
兄は、人の要望を形にするのがとても上手だった。使い手の思いを自然とくみ取り、形にする。その力に、私はいつも圧倒されていた。
結局、そのワークショップでは兄が考えたアイデアを採用することになった。
刻印を自由に打てるキーホルダーと、色を組み合わせて作るブレスレット。
どちらも、私の中からは出てこなかったデザインだった。
だからこそ、少しだけ、悔しかった。
「やっぱり兄には敵わない」
「レザークラフトって、私には向いていないのかも」
そんな思いが、どうしても頭をよぎった。
イベント当日は2日間の開催だったけれど、私は“ただのお手伝い”のような感覚だった。
レジをしたり、興味を持ってくれた人に声をかけたり。自分がこの場にいる意味を、ずっと探していた。
顔では笑っていたけれど、心の中では泣いていた。
そんな二日間だった。
レザークラフトを始めて1年──私はまだ、自分の人生を選べていなかった
レザークラフトを始めて1年ほど経ったこの頃の私は、「このままこれを続けていくのかな……」と、どこかふんわりとした気持ちでいた。
イベントのたびに、心の奥には「私はここにいていいの?」という問いが浮かぶ。
兄の手伝いではなく、自分の意志でやっているはずなのに、現実には何もできていない。だからこそ、心が揺れていた。
兄が誘ってくれた手前、「やめたい」とも言えない。
やめたところで、次に何をするかも決まっていない。
八方塞がりのような気持ちだった。
そして何より──
自分の力で収入を得ることができない現実が、私の中で、少しずつストレスになっていた。
この頃の私は、まだ、「自分の人生を、自分で選ぶ」ということが、できていなかったのだった。
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この記事は、「革花作家|販売と心の記録」というカテゴリの中の一編です。
2017年に革花を始めた当初からの、販売の葛藤や気づき、そして自分自身と向き合ってきた過程を時系列で記録しています。
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