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兄の背中を追いながら、それでも自分だけの表現を探していた頃

※この記事は「革花作家|販売と心の記録」シリーズの第4話です。

▼ 第3話はこちら:
“ガラクタ”と呼ばれても──悔しさが教えてくれた、作ることへの向き合い方

「自分にしかできないものづくり」を求めて動き出した日々

前回のイベントで感じた悔しさをきっかけに、私は「自分にしかできないものづくり」を意識し始めた。
何を作りたいのかも、どんなふうに表現したいのかも、まだよく分からなかったけれど、とにかくヒントになりそうなことは、手あたり次第に試していた。

「人と似たものではなく、自分の感覚を形にしたい」という気持ちだけが、次第に強くなっていった。

レザーバーニングとの出会いと、革の染色に芽生えた興味

レザーバーニングでネイティブアメリカン由来の模様を描いた革のアクセサリーや革で作られたアクセサリーの画像

この頃、「レザーバーニング」という技法に出会った。
焼きゴテで革を焦がしながら、模様や絵を描いていくというもので、もともと絵を描くのが好きだった私は、すぐに興味を持ち、挑戦してみることにした。

兄が持っていた刻印の中にあったネイティブアメリカンの模様──そのひとつひとつに意味があることを知り、しばらく夢中になってアクセサリーに取り入れていた。

しばらくは、ただ模様を描くだけで満足していたのだけれど、次第に物足りなさを感じ始め、当時興味を持っていたマンダラやボタニカルアートの要素を加えていくようになった。自由に、思いつくままに描いていたこの時期。作品には、まだ明確な方向性はなかったけれど、何かが少しずつ動き始めていた。

革のキーケースや革アクセサリー作品。革に花の模様が書かれたものもある。

その頃から私は、革の染色にも興味を持ち始めていた。
最初は単色で染めたり、いくつかの色を重ねてみたり。色を扱うことがただ楽しくて、夢中になっていた。そうしていくうちに、自分の中にあった「色が好き」という気持ちが、抑えきれないほどあふれてきた。

それまでは、「革=かっこいい」という固定観念がどこかにあった。
でも、だんだんと“色鮮やかさ”や“花モチーフ”に惹かれるようになっていた。

同時に、兄がデザインした革小物を一緒に作ることにも取り組んでいた。小さなキーカバーや、手縫いのカードケース。兄と始めたレザークラフトは、少しずつ、私の中で違うかたちに変わり始めていた。

楽しく作ることが大事?──言葉に救われ、前へ進んだ理由

前回のイベントが終わったあと、しばらくは落ち込んでいたけれど、「やるしかない」と自分に言い聞かせて、なんとか前に進もうとしていた。

あのイベントのとき、長く活動している作家さんがこう言ってくれた。

「ハンドメイドって、すぐに売れるようにはならないけど、長く続けたいなら“楽しむ”ことが一番よ。
楽しんで作った作品は、お客さんにも伝わるのよ。」

その言葉に、私は少し救われたような気がした。
「楽しい」が伝染するのなら、私も楽しんで作ってみよう、と。そう思えたからこそ、新しいことに挑戦するのが、少しだけ楽しみになった。

それまでは「兄の手伝いをする」立場だったけれど、自分ができることを探し始めると、意外とできることはあるんだと気づいた。
それが、当時の私の原動力になっていた。

ワークショップ出展で感じた悔しさと、兄との距離感

イベントから2か月ほどたった頃、「ワークショップに出てみないか」と声をかけていただき、出展が決まった。

「誰でも楽しめる、簡単な革小物を」と、兄と一緒に試作を重ねた。
兄は、人の要望を形にするのがとても上手だった。使い手の思いを自然とくみ取り、形にする。その力に、私はいつも圧倒されていた。

結局、そのワークショップでは兄が考えたアイデアを採用することになった。
刻印を自由に打てるキーホルダーと、色を組み合わせて作るブレスレット。

どちらも、私の中からは出てこなかったデザインだった。
だからこそ、少しだけ、悔しかった。

「やっぱり兄には敵わない」
「レザークラフトって、私には向いていないのかも」
そんな思いが、どうしても頭をよぎった。

イベント当日は2日間の開催だったけれど、私は“ただのお手伝い”のような感覚だった。
レジをしたり、興味を持ってくれた人に声をかけたり。自分がこの場にいる意味を、ずっと探していた。

顔では笑っていたけれど、心の中では泣いていた。
そんな二日間だった。

レザークラフトを始めて1年──私はまだ、自分の人生を選べていなかった

レザークラフトを始めて1年ほど経ったこの頃の私は、「このままこれを続けていくのかな……」と、どこかふんわりとした気持ちでいた。

イベントのたびに、心の奥には「私はここにいていいの?」という問いが浮かぶ。
兄の手伝いではなく、自分の意志でやっているはずなのに、現実には何もできていない。だからこそ、心が揺れていた。

兄が誘ってくれた手前、「やめたい」とも言えない。
やめたところで、次に何をするかも決まっていない。

八方塞がりのような気持ちだった。

そして何より──
自分の力で収入を得ることができない現実が、私の中で、少しずつストレスになっていた。

この頃の私は、まだ、「自分の人生を、自分で選ぶ」ということが、できていなかったのだった。


次回|第5話

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当時の私が手探りで作ろうとしていたもの。革花ダイアリーから。

この記事は、「革花作家|販売と心の記録」というカテゴリの中の一編です。
2017年に革花を始めた当初からの、販売の葛藤や気づき、そして自分自身と向き合ってきた過程を時系列で記録しています。
革花作家|販売と心の記録

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