菜の花の革花制作日記も、今回で最終回!
ここまでご興味持って読んでくださったみなさん、本当にありがとうございます。もし、制作日記①~③を読んでいない方は、ぜひ①から順に読んでいただけたら嬉しいです。
- 菜の花イヤリングの完成|つぼみから花開くデザインのこだわり
- 菜の花の一輪|立体的な表現への挑戦
- 革花作品のリアルと抽象化|どこまで表現するか
- 革の染色と色のリアル|本物を深く観察することの大切さ
- 最後に|菜の花の革花制作日記の締めくくり
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菜の花イヤリングの完成|つぼみから花開くデザインのこだわり
今回の菜の花アクセサリーは、菜の花の一部分を切り取ったようなデザイン にしてみました。
つぼみが少しずつ開いていく様子を、革の小さなパーツで表現しています。
アクセサリー金具以外は、すべて革で作られた菜の花。
花が開いている3つのパーツも、茎を革で作って立体感を出しました。
私が特にこだわったのは、横からのアングル。
菜の花が少しずつ花開いていく瞬間が伝わると嬉しいです…!
いつも革花を作るときに意識しているのは、横から見たときにのっぺりとした印象にならないこと。まるで本物のように、つぼみが膨らみ、花が開く瞬間を切り取ったような作品にしたかったのです。
過去に作った菜の花アクセサリーとは全く異なるデザイン になりました。
少しずつ進化していることを実感できて、とても嬉しいです。
✳ 新作として制作していましたが、この菜の花は販売しないことに決めました。 ごめんなさい。
菜の花の一輪|立体的な表現への挑戦
今回は、菜の花のイヤリングとともに、一輪の菜の花 も作ってみました。
菜の花畑にたくさん咲く、あの鮮やかな黄色い花を思い浮かべながら…
ふんわりとした優しい雰囲気を表現するために、花を2段にして花の数を増やしています。
アクセサリーにはない立体感。見ているだけで春が来たような気分…
ただ、作ってみて感じたのは、茎がもう少し太めだったら、もっと菜の花らしさが出ただろうな ということ。
この辺りは、次回の課題として活かしたいです。
菜の花の便りはまだ先ですが、こうして季節の花を作ったり眺めたりするだけで、不思議とその季節に連れて行ってくれる気がします。
鮮やかな黄色、小さな花、丸いフォルム。どれもが可愛らしくて、大好きです。
革花作品のリアルと抽象化|どこまで表現するか
花を作る上で大切にしているのは、形と色。
様々な角度から眺めたときに、その花の雰囲気をしっかり纏っているかがポイントだと感じています。
ものづくりには、リアルに作るか、抽象的に作るか で大きく作品の表情が変わります。
私が革花を作り始めたとき、一番表現したかったのは 「立体感」 でした。
花びらの曲線や、花が開く瞬間の躍動感をどう表現できるか…。
しかし、革という素材を使う上で一番の壁となったのが、革の厚み でした。
「リアルに作りたい」
「でも、革には厚みがある」
「どうやったら繊細に見える?」
作れば作るほど、細部まで作り込みたくなり、どこまでもリアルを求めてしまう。
けれど、革の特性を考えると、ある程度の抽象化も必要 だと気づきました。
100%リアルに作るなら、もしかしたら3Dプリンターで再現した方が早いかもしれません。
でも、私が作りたいのは 「本物と全く同じ花」 ではなく、「私にしか作れない唯一無二の革花」。
それならば、リアルを追求しすぎるのではなく、私なりの抽象化 を加えることが大事なのだと考えました。
革の染色と色のリアル|本物を深く観察することの大切さ
リアルと抽象化には、立体感だけでなく色も含まれています。革花を作り始めた頃、まだ作風が定まっていなかった私は、生花のような色合いを再現することだけに集中していました。
赤い花なら赤、紫なら紫と、視覚から入ってくる瞬間的な情報だけで色を判断して革を染めていたんです。革染めは楽しくて夢中になっていましたが、色を追求すればするほど、いつしか「なんだか表現したい色と違う」と感じるようになりました。その理由が分からず、染料をあれこれ混ぜたり、濃淡や影の色を研究したりと、できる限りのことを試してみましたが、やはり「何かが違う」という違和感は拭えませんでした。
どうしても思い描く色に近づけなくて、悩みに悩んでいたあるとき(すでに3年ほど試行錯誤していました)、SNSで目にしたある投稿にハッとさせられたのです。
人は、自分が見たいものしか見ようとしない。
その投稿には、こんな言葉がありました。「本当にそれを作りたいなら、見た目だけで判断せず、とにかくよく観察すること。作りたい部分だけでなく、さまざまな角度から見て、花弁の向きや形、しわや虫食い、葉脈に至るまで、すべてを細かく観察すること」。
これは、樹脂で花の簪を作っている作家さんの言葉でした。その瞬間、まるで時間が止まったかのような衝撃を受けたのを今でもはっきり覚えています。
私も花を観察しているつもりでした。でも、想像していた色に染められなかったのは、瞬間的な視覚情報だけで色を判断していたからだったんです。
もしかしたら、これを読んでいる方は「そんなの当たり前では?」と思うかもしれません。でも、その「当たり前だと思っていること」こそが、私が本当に作りたい作品にたどり着けなかった理由でした。
人は見たいものしか見ようとしない。
この言葉は、私自身にも当てはまっていました。
例えば、桜を作ろうとしたとき、イメージの中にあるピンク色をずっと再現しようとしていました。でも、桜の色は本当にピンク色なのか?と調べてみると「薄紅色」と記されていて、実際は白に限りなく近い淡いピンク色だったんです。しかも、花の色はすべて均一ではなく、ところどころにほんのりとしたグラデーションがありました。
花の全体像だけでなく、花弁の色やおしべ・めしべの数、色・形、裏側の表情、つぼみが開く様子など、知識として知っているのと、実際に観察して見るのとでは意味がまったく異なります。
「見たい色」で染めていたから、「何かが違う」という違和感に繋がったんだ。
そう気づいたとき、やっと腑に落ちました。リアルに作りつつも、自分なりに抽象化した作品を作るには、本物を知ることが何より大切。単に知っているのと、深く理解するのとでは次元が違います。
だからこそ、作品を見たときに衝撃を受けるほどの感動が生まれる。ものづくりって、本当に奥が深くて、面白くて、とても広い、答えのない世界だと思います。
最後に|菜の花の革花制作日記の締めくくり
菜の花の革花制作日記は、今回で最終回です。
これまで公開してこなかった制作の裏側を初めて記録したこの日記。書くまでには少し勇気と不安がありましたが、革花作りの楽しさや、ものづくりの裏側をお伝えできて、本当に嬉しいです。
長い時間をかけて革花と向き合っていると、次々と「思うように表現できない」ことや「どこかしっくりこない」違和感が出てきます。そのたびに自分に問いかけては、考え、試してみる……そんな繰り返しの日々でした。
けれど、その難しさに悩むこと自体が、革花を作る情熱となり、探求する面白さに繋がっています。だからこそ、やめられないんだと思います。
世の中にはたくさんの作り手がいて、それぞれに表現の仕方があるように、同じ菜の花でも、その解釈はさまざま。例えば、黄色い菜の花を青色で作る人もいれば、立体ではなく平面で表現する人もいます。デザインとは、その人らしさが滲み出るとても大切な部分です。
この制作日記を通じて、少しでもものづくりに興味を持っていただけたら嬉しいです。そして、これからも革花作りの楽しさや奥深さを、ゆっくりと伝えていけたらと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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革花が完成するまでの工程を、全4回に分けて記録しています。
デザイン・型紙制作・染色・成形・仕上げまで、革花作家の試行錯誤をぜひご覧ください。
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