売れるものより、“作りたい”を信じる|ハンドメイドに悩んだ私の選択と集中

革花という珍しいジャンルを創ると決意して、革花を探求して9年目を迎えた。

ここに至るまで本当に、何度もブレてきた。

最初は革花を作るのが楽しくて仕方なくて、何をするにしても革花のことでいっぱいなほど「やってみたい」「作ってみたい」が私の中にあふれていた。

でも、ECサイトで販売を始めて、3万円ほどの売り上げが立つまでには、半年ほどはかかったと思う。

売れなかったときは、アクセス数を毎日何度も見ては、

何がいけないのだろう?
作品に魅力がないのか?
作品名がだめなのか?
説明文が分かりにくいのか?

と、とにかく自分の中のアラを探して回った。

私は、どちらかというと、言葉で伝えるのは得意ではないけれど、文章で伝えるのは好きな方。
写真だって、撮るのは好きだし、結構褒められたりもしていた。

それでも、何度も読み返して「何がいけないのか」と、毎日何度も販売サイトを開いては、注文の来ないページとにらめっこしていた。

当時の私は、毎月5万円売上があると聞けばものすごい人だし、「プロ」だと思っていたくらい、作ることに関しても、物を売ることにも、ドがつくほどの素人だった。


よく、SNSでハンドメイド作家さんがつぶやいているのを目にする。

「作品が3か月売れてない。」
「売上0が3か月も続いてる。」
「写真や作品が良くないのかな。」

と。もう何度も何度も目にしてきた。

それは、過去の私と同じように、何だか負のオーラを放っているような気さえしてくる。

私も同じように悩み、苦しみ、試行錯誤してきて今がある。


ECサイトで販売を始める前、イベント販売を中心に活動していた私は、どんなものを作れば「売れるのか」を、イベントに行くたびに先輩作家さんに聞きまわっていた。

お客さまにも、「どんなものがあったらいいなと思いますか?」と、自分の外側に答えを求めて聞いていた。

あるイベントで、「花じゃなくて、かっこいい感じのもの欲しい」と言われたのをきっかけに、【カッコいい路線】が売れるかもしれないと、勝手にヒントを得た気になって、花からかけ離れたものを作ったことがあった。

今でも見るだけでぎょっとするようなアクセサリーだったけれど、やってみなければ何も分からないからと、パーツから購入して作り、SNSで宣伝して次のイベントに臨んだ。

すると、イベント2日目。

「あの…このアクセサリーって、まだ残ってますか?」

と、試作の【かっこいいアクセサリー】の投稿を見たお客さまが来てくれたのだ。

大変だったけど、やっぱり作ってよかった。
お客さまの声が正しかった!と確信を得たのをきっかけに、ことあるごとにイベントに来ていたお客さまの声に耳を傾け、求められるものを作ろうと必死になっていった。


その間も、革花は作っていたけれど、イベントで並ぶ作品は、花モチーフの中に、カッコいいものや可愛らしいものなどが混ざり、一体どれが本当に作りたいものなのかが、ぱっと見では分からない状況だったと思う。

「え?ここって何屋さんですか?」

と聞かれたこともある。

当時は、何も思わず「革小物と革アクセサリーのお店です」なんて笑顔で答えていたけれど、その質問に「ムッ」としなかった私は、今思えば作家でも何でもなく、単なる素人だったのである。

その答えが分かるのは、それから数年後になるなんて、当時の私は知る由もない。


お客さまの意見を取り入れて、それを探しに来てくれたお客さまはいたけれど、いつだって購入してくれるのは「こんなものが欲しい」と教えてくれた人ではなかった。

それでも、お客さまの意見が一番正しいのだと勝手に思い込み、売れた=正解だと勘違いして、その後も数年間、そんなことを続けていた。

でも、続けていくうちに、私の中にある思いが浮かんでは消え、また浮かんでは消え…を繰り返していた。

――どうして「欲しい」と言っていたお客さまは、イベントに来て、求めていたはずの作品を手にしないのだろう。
欲しいと言っていたから、頑張って作ったのに…

売れ残った作品の数々を眺めては、そんな思いが何度もよぎった。


お客さまに求められて作るものは、とてつもなく時間がかかった。

私が作りたい「革花」を作るときは、デザインを考えるときも、作るときも楽しいし、次はこうしよう!と前向きになれる。

なのに、お客さまから求められるものを作るときは、どちらかというと「作らなきゃ」という思いで作るからか、完成するまでとても心が重かった。

そして、正直、しんどかった。

途中、何度も何度も「作りたくない」という思いが浮かぶのに、求められているからという思いだけで、完成まで時間をかけていた。

―――「あぁ…なんか楽しくない」

ぼそっと自分の口をついて出た言葉に、ハッとさせられた。


何が言いたいか、お分かりだろうか。

―――本当に自分が作りたいと心から求めているものまで、「やりたくない」という気持ちになるほど、自分を見失っていたのだ。


革花を作り始めたころ、「革で花を作ってみたい!」と、あれだけ夢中になっていたのに、売れない・売れるようになりたいという理由だけで、私の中にあった純粋な想いに蓋をして、お客さまだけのためだけにものづくりをしてしまっていた。

私は、何のために革でアクセサリーを作っているのだろう。

これは、いつまで続くのだろう。
こんな思いをしてまで作家を続けたくない。
やめたほうが楽なんじゃないか。

こんなふうに心が追い詰められるほど、自分を犠牲にしてしまっていた。


そんな思いが何度も浮かんで、
「作家をやめて働いた方が、ずっと簡単に収入を得られる」と、無理やり自分に言い聞かせようとしたこともあった。

けれど、私は、やっぱり革で花を作りたかったのだ。

ここで辞めてしまったら、これまでの努力が全部水の泡になってしまう…

そう思うと、「辞めたくない」という思いが湧いてきた。

私が本当にやりたいと思っていたことは、革で花を作るというシンプルな思い。
ただ、それだけをやればいいだけなのに、「売れない」からという理由だけで自分の気持ちを抑え込んだ結果、こうして辞めようと思うほどまでになってしまったのだった。


世間一般では「お客さまのために」という言葉を使えば、「素晴らしい」と人間性を評価される。
過去の私だって、そう思っていたし、疑うこともしなかった。

でも、今の私は、全くそう思わない。

自分がやってみたいというその思いこそが、ダイヤモンドの原石なのに、お客さまばかりを満たそうとした瞬間、ただの石ころになってしまうから。

お客さまのために石ころを磨いたって、石ころのままなのだ。

自分のために磨き続けることができるから、石ころがダイヤモンドになって、キラキラ輝くのだと、私は思う。


この経験から、私は、今に至るまでに誰よりも時間がかかったし、ずいぶん遠回りをした。

誰かに教えてもらったわけではないからこそ、とてつもなく苦悩したし、失敗もたくさんした。

でも、この経験があったからこそ、今、ブレずにこうして革花の専門書を書いている。

私は、革花を専門として、ずっと一本でやってきた。

今、「あなたは何屋さんですか?」と聞かれたら、迷わず「革花の専門家です」と胸を張って言える。

何屋さんですか?と問われたら、ムッとしてしまうくらいに。


今、あなたがハンドメイドを仕事にしていて、売れないと悩んでいるとしたら、ここに来て、私の経験や失敗談を読んでほしい。

あなたが本当に作りたいものは何ですか。

本当に作りたい、こんな風にしたいと思うことがあるのであれば、まずは売上なんて横に置いて、ただ「作ってみたい!」という強い思いを大切に、無我夢中でそれを作ったらいい。

流行がどうとか、自分のお客さまはこんな人が多いから…なんて考えずに、まずは形にしてみてほしい。

あなたの中にある、ダイヤモンドの原石は、あなたにしか磨くことはできないし、周りの人の意見に流されていたら、キラキラ輝きだそうとしていたダイヤモンドが、一気に曇ってしまう。ただの石ころになってしまう。

あいまいな思いからは、あいまいなものしか生まれない。

だから、あなたの中にある思いを濁らせないためにも、まずは、あなたが作りたいものをどんどん形にしていくだけでいい。

決して、周りの人に流されず、「私は、こうしたい」という思いを強く持ってほしい。

 

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