社会不適合者が見つけた『革花作家』という道

あれは2018年、冬のこと。

2年ほど続けてきたイベント出店をやめて、私はインターネットサイトでの販売を中心にやっていこうと決意していた。
まだ、革花を作り始めてから、ほんの1年半ほどだったと思う。

イベントのために作りためていた作品をすべて引っ張り出し、自分をモデルにして作品ページに掲載するための写真を撮り、ECサイトへ登録していたときのこと。

ハンドメイド作品を販売するためのECサイトで必ず見かけるプロフィール欄。
私は、それを入力することに、ずっと抵抗があった。
いつも同じ項目でつまづく「肩書き」――

当時の私は、まだ1年半ほどしか革花を作っていなかった。
まだ売れていない、イベントにほんの数回出展して、わずかばかりの売上があっただけの「趣味程度」と言われてもおかしくないレベルだったと思う。

すでに革で花を作るということは決めていたけれど、作品のクオリティはまだまだだと感じていたし、周りの売れているであろう作家と比べて日々落ち込むほど駆け出しだった。

そんな私がECサイトの「肩書き」になんて書けばいいのか。
本気で悩んだ。

当時は自分自身の作品に、自信などなかった。
作家や職人と名乗るには、技術はもちろん、知識も、経験も、すべてが足りないと感じていた。
でも、革で花を作ることを仕事にする、絶対「趣味の延長」だなんて言わせないという熱い思いだけは誰よりも強かった。

だけど、「肩書き」を書こうとした途端、その熱い思いでさえも、その枠にはめられてしまいそうで、誰かと比べられてしまいそうで、何日も「肩書き」を入力できないまま手が止まっていた。

 


 

それから、私はずっと考えていた。
「革で花を作る」と決めているとはいえ、何者になりたいのだろう?と。

なぜ、そこで立ち止まっていたのか、今なら分かる気がする。

それまでの人生にあったのが、私自身の肩書きではなかったからだと思う。
生まれたその時から、誰かの娘であり、誰かの彼女、妻。そして、誰かの母。職業名。

そのどれもが、私自身をさすものではないと感じるし、仕事をする上では違和感でしかなく、誰が私のことをどんなふうに見ているのだろうと感じることが多かった。

それまでの世界は、そうした違和感しかない肩書きをずっと背負いながら生きていた。

だからこそ、何度も、何度も自分に問いかけた。

「何者になりたいの?」
「どう生きていきたいの?」

世間一般に言われている、そのしがらみのような「違和感しかない肩書き」を持たず、新しい私として生きられるなら‥

――どう生きたい?
―――私は、私のままでありたい。

周りにいる誰かとイコールになるような位置づけではなく、自分にしかできない何か。

“ほかの誰でもない、私”であるために、私がこれから一生をかけて取り組みたいと心底思ったこと。
それが「革花作家」だった。


革職人
ハンドメイダー
デザイナー
革作家
レザーフラワーアーティスト

肩書きの欄に、どれを当てはめても、私にはしっくりこなかった。

そこまでの人間じゃない。
何かを語れるほど経験がない・・私が、それらを名乗ることは一切なかった。

「肩書きなんて、ただの職業名だ」「そんなに悩むようなこと?」と言われたこともある。
私だって、自分ごとでなければ、きっと「なんだっていいじゃん」で終わっていただろう。

でも、あの時の私は違っていた。
それまで考えたこともないような、人生の中にありえなかった難しい質問を、目の奥が痛くなるほど自分に問いかけ続けた。

生まれたその時から持っていた、誰かの娘、誰かの彼女、妻。そして、誰かの母。職業名。そんな世界しか知らなかった私が、そこを抜け出して、自らの足で歩き始めようとしていたのだから。


それから時が経ち、私は「革花作家」という肩書きで生きてから8年が経った。

最初こそ、名乗ることに少しの抵抗と照れくささがあったけれど、今ではあの時の決断が私を支えてくれたと感じている。

「私は何者になりたいのか」という自分自身への答えも、この8年間で見つかった。

――私は、誰も歩んでいない道を歩み、それを伝える人となりたい。
それが、私の答え。


人生において、目標となる人や、憧れを抱くほどの人に出会えなかった。

すばらしい偉人の歴史を知って、感銘を受けることはあっても、目指したいと思えなかった。

友人や家族と、そんな話をすると「あなたは変わっているから」と茶化されたり、「かっこつけてるだけ」だと馬鹿にされても、本当に「こんな人みたいになりたい」と本気で思えなかったのだから、私はきっと、へんてこで、変わってる人間なんだろうと思っていた。

正直、まともじゃないとか、社会不適合者といわれる方が、しっくりくる気もしていたくらいだ。

誰かに似ていると言われるのは嫌だし、誰かと同じであることに何の魅力も感じない。
誰かのまねごとをしても面白くなくて、時間の無駄だと感じてしまうような人間だから。


だからこそ、私は「革花作家」という肩書きを選んだ。

当時、私が知るところでは、誰も名乗っていなかったその肩書きに、ワクワクした気持ちと同時にずっしりとした重さも感じていた。

私が、「革花」という世界を創る。

革花作家と名乗るのであれば、その肩書きに恥じない人になろう。
そこからが、私にとって本気の人生のスタートだった――

どこにでもいる、何の特技もない、ただなんとなく生きていた私を、
「革花作家」という肩書きがここまで連れてきてくれた。

――そして今、私は「世界一くわしい革花の専門書」を創っている。

 

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